扇沢〜針ノ木峠
発(9:00)〜大沢小屋(13:30-15:00)・青木到着(18:30)
晴。
大沢小屋から、十分も森林帯を行くとすぐ雪渓になる。始めはゆるいが、段々と傾斜も増して来る。向うの山稜には、明るい山稜が照っているが、谷間は未だだ。Gさんは、どんどん行ってしまう。Kさんは、まだ見えぬ。雪渓の端に水が流れている。水を飲んで、アイゼンをつける。Kさんが来る。傾斜は、いよいよ急に、雪渓は二つに分れ、右へ登る。峠はすぐ目の上だ。もうすぐだ。ところが、さにあらず。三十分もかゝる。喜びに、来し方を見ると驚いた。よくも登ったと思う。さて、向うと見れば、槍から続く、二つの尾根が、はっきりしている。黒部五郎が黒部川におっかぶせるようにせまる。
涼しい風に吹かれながら晝食をとった後、調子の悪いKさんを残して、はるか下に見える沢へと向う。荷は、再び重い。
雪渓を横断する途中で、向う側から二人連れが来て、待つ。”早く渡らねば”と思って、トップの僕が、あと一歩という所、Gさんが、”おっ”と云う。ピョンと飛んで、下を見ると、Hが落ちている。ピッケルをさそうと県命になっている。半分程落ちた。荷が重いのか、自由がきかぬらしい。”あっピッケルが逆になった”もうどうにもならぬ。勢がついて、下の岩へと行く。背すぢに冷いものが走る。鈍い音を立てゝ、岩につき当る。数秒のうちに起った出来事だ。動かない。
荷をおいて、後藤さんは下へ、僕は上へと行く。Kさんは、呼ぶと降りて来た。雪渓を下っていった。僕にはできなかった。ザックのそばに立って、呆然と下を見ているだけだった。何と無力なのだ。
”だいじょーぶかー”
”うん、もう歩けるらしいー
ザックを上げといてくれー”
湯をわかし、消毒したガーゼで傷口をふく。ペニシリンを塗り、ホウタイを巻く。外傷だけらしいので、まず安心した。
日暮れ頃になると、小屋にも人がおひおひと入ってくる。疲れ切った顔をして。[青木] |