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tome IV - 合宿報告 10
南アルプス合宿・B班昭和28年度夏季合宿(B班)
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鳳凰三山中、先ず薬師岳へ登ったがその途中這松(偃松)と砂の斜面を登った時は、一寸愉快だった。生い繁る這松の枝の交錯する中に僅に人の通った跡を見出して其処にザワザワと分け入ったがザックが邪魔になってなかなか前進出来ない。そこで、意を決して這松のアーチの中を四ツ這いになって文字通り猪突猛進、その難所を突破したのだがその時の四ツ足の味は忘れられない。進化論は正しかった。進化の過程に於て四ツ足を経て来たからこそ人間は四ツ足で歩く潜在本能を持っているのだ。膝を屈して前肢を冷い砂の上に下し、二、三歩前へ進み出た時は、正にその本能の呼び醒まされた時だったのであろう。私は、何か野性的な快感を覚えて奇妙に咆哮しつゝ、一気に突っ走ったものだ。 薬師岳の頂上辺りからようやく他のパーティに会うようになった。そして観音岳の頂上では、麻布に殊に縁の深い某(特に名を秘す)女学院の山梨の生徒さん達に会い、共に語りつゝ遠く東の方を望み、遥々来ぬる旅を想って淡い郷愁に襲われたことである。私は後にホーム・シックを起した下級生諸君は此処でその因子を植え付けられたのではないかと思って、山上で一服の清涼剤の役割を果して呉れた彼女らを怨じてみたりする。 峠から 20分程行くと早川小舎がある。無料で而も屋根、壁、床を完全に備えているので夕刻までには同宿者が30名近くに及んだ。大した賑いである。此処で私達は南御室小舎の時同様、慈善事業と称して薪を沢山伐り出して小舎の傍らに井桁に組んで積み重ね後に来る者に備えておいた。夕方、始めて夕立に遭った。立派な小屋の中で威勢よく燃える炊事の火にあたりながら、遠雷に耳を傾け、太い銀線を眺める山の夕立の景色は情緒的でさえある。霽れると今度は空が深紅に燃える夕焼けだ。あれ程までに美しい虹の色を見たのは、”風と共に去りぬ”という映画の終幕近くの日暮れのシーンでだけである。然しアカデミー賞の色彩名画もこの荘重な夕焼けの前にはその光芒を失った。 山行の前後に於て最も印象的な一日はその日に相応しい夕焼けに暮れた。 |
やがて雨は仙丈岳の方から霽れて来た。六人用のテントに八人を詰め込んだのは無暴と云えばそうであったが或る者は眠り或る者は語り合う中にキャンプの夜は更けて行った。 |
凡らく南アに花火を持込んだのは実に、我が麻布高校山岳部 B 班を以て嚆矢とするのではあるまいか。 |
辰野から乗った臨時列車は小さな駅を、文字通り小石の様に黙殺した。新宿着、二十時丁度。山手線を待つ私の耳に一週間前の 7月25日、私達が東京を離れたと同じ 20時12分発甲府行の列車の発車ベルが聞えて来た。 ○ 私達が帰宅した翌日、8 月 1 日に仙丈組が、四日後に A 班が、全員一人の故障者も無く東京の土を踏んだ。 |
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続・南アルプス B 班(仙丈岳) 荒垣、桐谷、佐藤の三君と北沢峠で分れ、残りの五人は仙丈の頂上へと向った。 快晴、空気のすんだすがすがしい朝だ。太陽は緑の針葉樹林を通し、明るいまなざしで枯ち落ちた木の葉や、水気をもった木の根や岩角などを踊らせている。 6時55分。小仙丈の岩稜に出る。展望は一っきに開け、まぶしいばかりの光線の下で稜線づたいに岩稜上を仙丈岳の頂上へと目を移すと、心ははや頂上へと飛びいやが上にも足は軽くなる、と云いたいのだが、地元の高遠高校の連中を追いぬこうと急傾斜の樹林帯の登りを駆足で登って来たので息が切れてガレ場で小休。寸瞬后、全員揃って二等三角点を脚下に置いた。 展望は予想外に良かったが、はるか下、伊那高遠の村々はち切れ飛ぶあやし気な雲の下に睡っている。だがお山は快晴、北岳の姿はまったく勇ましいと云うより奥深いと云う気がする。 花崗岩の台の上にがっちりと乗った銅製の方向盤のある東芝の遭難碑を後に頂上を辞したのは午前 8時15分。小仙丈側と反対の尾根を少し下り、右折してヤブ沢源流のかろうじて残った雪渓上に降り、しばらく往くと岩室の様な仙丈小屋があり、水がこんこんと湧き出て旅人の喉を潤している。思うぞん分水を飲み、ふり返ると頂上は頭上にのしかゝる様に聳えている。 再び駈足の下りにかゝり、立派な道が開かれた這松の中を行くと、岳樺の木影の下一面に拡がったお花畑に出た。白い木々の間から青空を見上げ寝ころんだ顔の横にある可憐な紫色の花に目を移し、一週間のワンデルングの終幕を飾るにふさわしき一時を送り、再び起き上った時には、いつの日か再びおとづれる時あらばと、しばし深呼吸をして山の美しい空気に分れを告げてゐた。 かくて 10時25分キャンプ地に着き、テントをたゝみ12時北沢峠を後に下った。 |
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text by k. aragaki & unknown writer. photo by y.tanabe.
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