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[chronicles]
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1976年度をふり返って
岩城達之助 |
この年は、今から考えると随分と愉快な一年間だったと思う。なにしろ上級生がみな引退してしまって、悪い盛りの中学三年生にしてみれば「さあ、うるさいのがいなくなった」とばかりに思う存分羽をのばすことができたわけだ。これが楽しくないわけがない。山に行ったところで山に登る喜びを味わうことより、親にも先生にも上級生にも、誰にも束縛されない解放感を味わうことの喜びの方がこの中学生たちにとってははるかに強かったといえる。少し乱暴な言い方をすれば、山に登るより、同級生同志きままに旅行したいと思っている中学生たちで山岳部が構成されていた。 |
もちろん皆それぞれ山に魅力を感じていることは間違いなかったし、日本中、世界中の山々に自分の足跡を残してやろうという野心家であったことも事実であった。いかんせん誰もが経験不足であった。前年に上級生の厳しい指導のもとに、登山のあるひとつのマニュアルのようなものはひととおりつめこまれてはいたけれども、それを応用していくだけの山行経験を積んでいる部員が残念ながら一人もいなかった。この年の年間の目標は、第一に多種多様の山に登るということであった。各自とも、おのれの経験不足は百も承知だったのである。 |
こんな状態であるから、部をいかに運営していくかとなるとはっきり言って、お先まっ暗だった。本当に今だからこそ愉快だったなどと笑い飛ばせるが、当時は夜遅くまで真剣に議論したものである。それも、「山岳部としての山登りと、自分達の求める山登りは違うのではないか」などというわかったような、わからないような抽象論ばかりで、今思えば随分哲学したものだ。 |
さて、この年の上半期の計画は昨年の計画をそっくりそのまま踏襲したもので、5月に新人歓迎山行、6月に新中一にテント生活を体験させ、夏に、中一参加の合宿と中一ぬきの合宿を行うというもの。中学合宿に至っては、場所も行き慣れた八ケ岳ということで、昨年の山行を忠実に再現するだけ。お蔭で、食糧が腐ったり、燃料が足りなくなったり、予定のコースが通れなかったりと、波欄万丈ではあったがどれもまとまった山行であった。特に北アルプスで合宿ができたことは各部員の自信に繋がるものとして評価された。 |
問題は下半期にあった。一つめの問題は、昨年度を模倣するだけの計画に嫌気がさしてきたこと。かといってオリジナリティを発揮した山行をアレンジするだけの能力もなかっただけに、この問題は根が深かった。二つめの問題は下半期の長期的なプランを煮つめることができなかったこと。というより、当時「今年度はとにかく多くの山に登るだけ」という姿勢で運営に臨んでいたので、長期的な展望を全く考えずにいたのである。ところが指導委員会から、春季合宿を目標とした長期計画を立てるよう強く要請を受けて頭を抱えてしまったのだ。かくして、春は尾瀬をスキーで歩こうなどという大胆な計画が提出されることになった。 |
この壮大なプランのもと、10月には尾瀬偵察、冬季合宿にはスキー練習が行われた。しかし、ほとんど全員がスキーも初めて、雪の中のテント生活も初めてという状態ではいくら練習したところで限度がある。はたせるかな飽きっぽい現代っ子の部員たちのスキー熱はあっという間に醒めてしまった。 |
目標を失うと部活動はこれほど面白くないものはない。三学期は行き先の決まらぬ春季合宿に部員も士気を失い、まとまりをなくしていた。春季合宿は神津島にしようなどという、ワンゲルもびっくりの計画もとび出し、驚いた指導委員の方が、孤島の山には島特有の気象があるから危ないなどと必死で思いとどまらせようとする一幕もあったことが、なつかしく思い出される。結局、春季合宿は私個人の思い入れで、無理矢理御坂に決めてしまりたが、受験を終えた高三の先輩諸氏の参加もあって、合宿は強いまとまりをみせ大成功に終わった。なんとか一年のしめくくりができてほっとしながら、自分一人の思い入れでつっ走ってしまうのも、部をまとめる一手だとほくそえむ中学三年の私であった。 参考『レポート』三九、四〇号(1986記) |
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text by t.iwaki. picture by n.takano.
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