コラム  11号 Sep.2004



 これまで谷川連峰の沢にはけっこう入ったが、そこから尾根つづきに北へのびる越後山塊の沢には、なぜか入る機会がなかった。深く切れ込んだV字谷、雪崩に磨かれたスラブ、豪快な滝と豊富に残る雪渓――記録や写真で見る越後の沢は、私の想像のなかで、遡行にともなうであろう困難と緊張を研ぎすませながら、しだいに蒸溜し、熟成していった。
 この夏は当初、昨年多雪のために入れなかった黒部の北又谷を考えていた。今年はおおむね例年より雪が少ないようで、コンディションはよいのではと予想された。だが、3泊4日の日程を組むにはメンバーの都合が合わず、かわりに高坂が提案したのは、越後は三国川の仙ノ滝沢だった。この山域も雪が多ければそれだけやっかいだから、今年はよい機会だと思われた。8月の最初の週末に、2泊3日の予定を組んだ。

《8月7日》

 武蔵小山で浜田を、府中で山田さんを拾ってもらい、関越道を走る。6時すぎに十字峡に到着。天気は上々だ。駐車場で、大水上山から平ケ岳への稜線の草刈りに行くという単独のおじさんと言葉を交わす。「1日でどのくらい進むんですか?」と聞くと、「200メートルくらい」(!)だそうだ。三国川への入渓者はわれわれだけのようである。
 出合まで約1時間の林道歩き。丹後山西尾根の登山口まではさほど気にならなかったが、そこを過ぎるとまとわりついてくるアブの多さに辟易する。たまらず防虫ネットをかぶり、腕をふりまわしながら小走りになってアブを追いはらう。入渓してもしばらくは防虫ネットを脱げなかった。(003)
 三国川本流の左俣、南沢(二万五千図では内膳沢)は、入渓してしばらくはのどかなゴーロがつづく。やがて川べりの石が小さくなり、両岸が迫ってくると、小滝があらわれはじめる。白い花崗岩に、清冽なしぶきがまぶしく映える。両岸は闊葉樹が岸にむかってたわんだ腕をのばし、緑の濃い葉あいからちらちらと木もれ陽を揺らしている。ところどころあらわれる小さなゴルジュに連続して小滝を懸け、それを過ぎるとまたひらける。山田さんがゴルジュ手前の淵で竿を出すが、さっぱり当たらない。(005)
 右岸に東沢を分けるあたりから、小滝の頻度が詰まってくる。大きな釜をもった7メートル滝を水流の左から越えると(012)、かなり幅の狭いゴルジュがあらわれる。ゴルジュ入口の3メートル滝に泳いで取りつき、3人でかわるがわる奥を覗きにいく。(014)(017)ゴルジュ出口の5メートル滝がつるつるで登れそうにないので、戻って右岸から巻く。このあたりの高巻きはまだ取りつきから樹林帯なので、掴むものには困らない。
 しばらく河原を行くと、青緑の深い淵があらわれ、奥で狭まって2メートル滝を落としている。右岸を小さく巻く。ふたたびひらけ、巨石のゴーロをたどる。12時になるとはやくも雷が鳴りはじめた。ゴーロの先に、幅広の6メートル滝。水流右が容易に登れる。
 これを越えると、ほどなく南沢と仙ノ滝沢の二俣だ。ちょうど雨が降りはじめた。時間は早いが、仙ノ滝沢に入るとしばらく適地がないだろうから、ここでザックを下ろして幕場を探す。ちょっと戻って、右岸のわずかな段丘を整地してテントを張る。雨はいつのまにか上がっていた。山田さんがさっそく竿を出すが、まったく反応がなく、早々に仕舞う。(025)昼寝と焚火でゆっくり過ごし、ウドの若葉の天ぷらを日本酒でいただく。ちょっとえぐいが、酒の肴としてはなかなかのもの。早めに就寝。


 

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