2日目
069 《2004年8月29日》
 7時前に出発。(069)乳白色の空。今日は昨日ほどは天気がよくなさそうだ。小滝を2つ3つ越すと、すぐ大滝下につく。4段80メートル。(071)とはいえ、80メートルというのは高度差だろう。流水距離はその2倍ちかくありそうだ。見上げると最上段の滝がかなり遠い。
一段目は傾斜が立っているので、戻って右岸から巻きぎみに上がる。浮き石に気を使いながら20メートルくらい登ったところで、高坂は右にトラバースしていく。あとに続こうとルートを見ると、傾斜のきついかなりいやらしいガレで、足を踏みだす気にならない。視線が下に向くと背筋が寒い。このままもう少し直上して、ブッシュが濃くなったところからトラバースし、灌木が出てきたあたりで合流する。(072)
 このまま灌木帯の張り出しをまわりこむようにしてトラバースし、懸垂で一段目と二段目のあいだの大テラスに降りる。ここでザイルを出しながら、上部のルートを確認する。1ピッチ目は、正面のスラブを直上する。岩は硬く乾いていて、快適だ。2ピッチ目は、瀑水沿いの赤茶けた逆層の岩盤と、白いスラブのコンタクトラインを登る。傾斜もあり、かなりの高度感だ。3ピッチ目で、落口めざして右へ斜上する。取りつきから見上げたとおりのラインが引けた。(075、076、079、081)
071
072 075
076 079
081
084  大滝の落口から振り返ると、浦佐の街がよく見える。ここから先は、両岸の傾斜が緩くなって、空がひろく、開放的な渓相になってくる。もっとも、まだまだ滝と釜がつづくのは変わりない。釜をへつり、よく磨かれたナメ状の滝や小滝をつぎからつぎへせっせと登っていく。(084)
15メートル2段のつるんとしたきれいな滝を右岸から小さく巻くと、冷気を巻きあげながらスノーブリッジが横たわっている。なかを覗いてみるが、真っ暗で奥が見えない。上に乗ると、なるほどずいぶん先までつながっている。(089)途中で一カ所切れていたが、右岸を少しへつってまたすぐに乗ることができた。300メートルほど雪上をたどり、谷底に下りると、そこはちょうど20メートル滝の落口だった。(093)この滝を巻かずにすんだのを喜びながら休んでいると、小雨がぱらぱら落ちてきてすぐにやんだ。
089
093
097  ほっとしたのもつかのま、またすぐスノーブリッジがあらわれる。今度は出口が見えているので下をくぐる。まったく生きた心地がしない。100メートルほど全力疾走。途中で二度もこけた。(097)くぐり終えると、沢が右へ曲がっているところに3段25メートルの滝を懸けている。左岸の小リッジを草を掴みながら登り、そのまま灌木帯に入って高巻き、クライムダウンする。(100)
 ここから先も、まだまだ滝がつづく。滝の規模はたしかに小さいが、草を掴んでへつったり、立ち上がりにバランスをとったりと、神経を使いっぱなしで気をぬく暇がない。とにかくこの沢には、ゆったりと水をたたえる淵とか、ゴーロや河原とか、つまり沢床がなだらかに寝ているポイントがまったくない。高度はぜんぶ滝でまかなっている、一本の滑り台というわけだ。どこだかの釜をへつっていたところ、スタンスにした土が剥がれてそのまま釜へドボン。取りつきまで泳がされる。やれやれ、やっぱり疲れているみたいだ。
 3対1の二俣をすぎると、さすがにU字の窪みも浅くなり、ナメの傾斜も緩くなってくる。草原のただなかを洗うナメのしぶきに見惚れながら足を浸すゆとりが、やっと出てきた。(109、111)このまま行くと源頭までつめ上がってしまうので、そろそろ今夜の泊まり場を探そう。左岸の草付きの段丘でザックを下ろす。さいわい、いままでめったに見なかった流木もある。対岸のダケカンバに細引きをつないで、タープを張る。
 右岸の郡界尾根がごく近い。フキギの突起も指呼の距離だ。下には新潟平野がよく見わたせる。白くかすんだ水平線の先に見えるスカイラインは佐渡だろうか。流木は乾いていてよく燃えた。日暮れとともに街の灯がまたたき出す。今日は一日ほぼ曇りだったが、ガスが下りてこないのはさいわいだった。夜が更けて、ときおり下のほうから「ドーン」というにぶい音が響いてくる。雷ではなさそうだから、ひょっとしたらあのスノーブリッジが崩壊しているのだろうか。(114)
100
109 111
114